『子育て支援の経済学』山口慎太郎著の要約、感想。政策で出生率は上げられる?

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今回読んだ本は山口慎太郎著『子育て支援の経済学』です。

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著者について

山口慎太郎さんで東京大学大学院経済学研究科教授。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」、および労働市場を分析する「労働経済学」だそうです。
別著に『「家族の幸せ」の経済学──データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)などがあります。

子育て支援策を経済学の視点から評価してみたら…?

これを書いている2024年7月には丁度東京都知事選挙があり、少子化は一つの争点でした。厚生労働省「2023年 人口動態統計」によると、東京都は全国で最も合計特殊出生率が低く、0.99というのが話題となりました。(全国平均で1.20)。

少子化になると何が問題なのでしょうか。

一つは人口減少による経済規模の縮小。労働力人口が減り国力が衰退してしまいます。

もう一つは年金制度への影響です。現在の日本の年金方式は賦課方式という、引退世代への年金を現役世代の保険料収入によってまかなう方式がとられているため、少子化は年金制度の制度破綻につながるのではと危惧されています。

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こうした状況の中、少子化対策をうたっていろいろな政策が出てきますが、実際に効果があるのかは疑問ですよね。「出産一時金の支給」「育児休業手当」「保育園の拡充」「給食費の無償化」「子ども3人以上扶養家庭の大学費無償化」などなど、様々な政策を耳にしますが、実際に少子化対策・子育て支援に効果のある政策なのかは少し気になるところです。

本書では日本だけでなく各国で行われた政策の評価を行い、政策の実施前と実施後でその政策にどのような効果があったのかをデータで示してくれています。

「現金給付を行うことは子どもを産むインセンティブになるか?」「保育所の整備は女性の就業率向上に寄与するか?」など、気になる内容が盛りだくさんです。

こうした研究結果を実際の政策立案に活かしてほしいと強く願います。

子育て支援政策の種類-現金給付/保育支援/育児休暇

本書では主に3つの子育て支援政策を例に挙げ、その政策効果を考察しています。注意が必要なのは南欧、北欧、アメリカ、カナダ、日本といった国の違いによって、その政策効果は異なる点です。伝統的に母親が育児をすべしと考える国と、元々男性が育児に積極的な国とでは、子どもを産み育てる土壌が違います。土壌が違えば、その政策効果も異なってきます。

①現金給付

育児に関する現金給付とは、例えば「出産一時金」「育休給付金」や「児童手当」のことを指します。その反対は「現物給付」で、保育所などの支援サービスが当てはまります。日本での育児支援は65%が現金給付、35%が現物給付となっています。

では、現金給付が少子化対策になるかというと、答えはNOのようです。それは、現金給付で得られるお金が、もう1人子どもを産むためよりも、今いる子どもの教育のために使われる傾向があるからだといいます。子ども1人当たりによりお金をかけることで、質のよい育児を目指す人の方が多い、ということですね。

では同じく現金給付である「育児休暇給付金」はどうでしょうか。こちらは女性が出産で仕事から一時的に離れる際に、職場に籍を残しつつ、生活のために得ることができる給付金です。こちらは育児休業明けに職場に戻る必要があるため、母親の就業率にこそ影響するども、出生率の引き上げには効果がなさそうです。

お金

私も子どもを育てていて感じることですが、(子どもを産むことが金銭的メリットだとする是非はともかくとして、)子どもを産むことによる金銭的なメリットはほとんどありません。子どもの扶養控除もありませんし、児童手当も微々たるものです。所得制限にかかればもらうこともできません。むしろ、多くの多子世帯は頑張ってやりくりしているのが現実でしょう。出生率を現金給付によって引き上げたいのであれば、もっと別なアプローチが必要だと感じました。

②保育支援

では次に、「保育支援」で子どもは増えるでしょうか。ほんの十年ほど前は保育園に入れない待機児童の存在が社会問題となっていましたが、今では保育園が増え、希望すれば保育園に入れる子がほとんどのように体感としては感じます。

では保育園が整備されたこの十年で子どもは増えたか?と聞かれるとこちらも答えはNOですよね。出生率は低下するばかりです(女性の出産年齢が向上しているから子どもが生まれる年が年々ズレている、という見方もあります)。

山口さんも、”分析結果によると、平均的に保育所定員率を上げても出生率が上昇したとは、統計学的にはみなせなかった”と書いています。ただし、保育所を必要としている家族の多い地域では出生率をある程度引き上げることができるという結果もあるそうです。

これは私の考えですが、保育所が整備されていることが直接的に子どもを産む動機付けとはならないのでしょう。

出産・育児休業

産休、育児休業は女性の出産・育児のために整備されている制度ですが、基本的には出産後は働きに戻ってきてね、という制度です。各国でのデータを見るかぎり、育児休業は短期的に仕事への復帰時期を遅らせる傾向があるものの、中長期的にはほとんど影響がない、つまり育児休業のあるなしに関わらず女性の一定数は仕事へ復帰するそうです。

日本では、一昔前までは出産で一時的に仕事を離れてしまうともう戻れる仕事がない、と言われていた時代がありました。私も母によくそう言われたのを覚えています。一時的に仕事を離れても、またキャリアをやり直す社会に変わっていけると良いですね。

 

父親の家事・育児参加が最も効果あり!?

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本書の中で私がとても興味深いと感じたのは、「男性の家事・育児参加が多い国ほど出生率が高い」という研究結果が紹介されていたことです。これはJames Feyrer, Bruce Sacerdoteと Ariel Dora Sternらによる研究で、ネット上でも見ることができました。(Will the Stork Return to Europe and Japan? Understanding Fertility within Developed Nations?

グラフ

2000年のデータなので古いですが、日本人男性の家事・育児参加は先進国の中で最下位です。反対に、アメリカでは男性の家事・育児参加が高く、出生率も高いことがわかります。

妻の目線からも、納得の結果と言えるのではないでしょうか。育児がしやすければ、もう一人子どもを産んでもきっと大丈夫!と感じるのは当たり前のことですよね。とはいえ、最近では共働きが当たり前になり育児を積極的に行っている男性も多く見かけます。

政策面から言えば、妻の負担軽減に焦点を当てた政策が、出生率の引き上げに効果的といえそうです。

女性の就業と出生率はトレードオフの関係にある

国は出生率を上げたいと考えている。一方で、女性の就業率も上げたい。

ですが、女性の就業率と出生率の間にはトレードオフが存在しています。仕事もして、子どもも産んで、育てながらまた仕事をして。女性はなんてたくさんのことを求められているのだろう…と悲しくなりました。

どちらも達成したい目標であるならば、相応の支援を行うべきでしょう。

もう一つ、私が本書を読んで思ったのは「女性が働くためには子どもを保育園に預ければ良い。保育園育ちの子も、自宅保育メインの子も、その後の成長結果はほとんど変わらない」というのは少し乱暴な意見だと感じました。

子どもによっては、母親と長時間離れることに不安に思う子もいますし、保育園が好きな子もいます。良い先生に当たることもあれば、その逆もあります。また、子どもは親と過ごす時間の中で安らぎを得ます。一様に保育園に預けることをスタンダードとする日本の現在のあり方には少し疑問です。個人的な意見ですが、子どもが2歳頃までは親と過ごせる社会になればと思います。

まとめ・感想

正直に言うと、本書は読んでいてもやっとしてしまうことが多い内容でした。内容が悪いのではもちろんありません。「そんな政策で子どもが増えるわけないよ!」とデータが示してくれているのに、その真逆のことを政府はしているように感じてしまいました。

「子どもを産む」

「出産後も仕事を続ける」

これは女性たち個人の選択です。政策によってコントロールがきくものではなさそうだ、というのが私の感想です。では何が出生率・就業率に影響するかというと、それは「文化」なのではないでしょうか。

祖父母が一緒に子どもを育ててくれる。地域の人が見守ってくれる。男性も育児休暇を取りやすく、男女ともに早帰りのしやすい職場を増やしていく。日本は女性にすべてを押し付けすぎです。女性が子どもを産み、育てやすい文化をつくっていくことが、結局は出生率の引き上げにつながっていくのではないでしょうか。

子育てに関する格差も減らしていくべきだと思います。児童手当の所得制限を撤廃し、保育園利用も平等にすべきでしょう。

もっとたくさん書きたいことはあるのですが、まとまらなさそうなのでこのくらいにしておきます。

より良い日本のあるべき子ども支援政策を考えたい!という方はぜひ一読してみてください。

 

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